印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2014年10月17日金曜日

動画広告を印刷でバズらせよう!

昨夜(10月16日)、オプンラボさん主催「ヤフー・ロボット・花王が語る 〜 イマドキの動画マーケティング」というトークイベントが開催されました。以下の動画広告の最前線で活躍されている方々が、現在そして今後の動画について熱く語った今回のイベントは、本当に刺激的でした:
  • 志村 一隆 氏 ヤフー マーケティングイノベーション室/映像エバンジェリスト
  • 加藤 雅章 氏 ロボット 執行役員
  • 本間 充 氏 花王 デジタルトレード室長

私がポータルサイトのエキサイトに在籍していた10年くらい前から「動画広告」という言葉はありましたが、現時点では広告主として「真剣に勉強している分野」(本間氏)、またメディアとして「一番儲かっている分野」(志村氏)となっているそうです。

では、イマドキの動画広告というのはどういうものなのでしょう?こちらが、今回のイベントで紹介されたもの(一部)です:

共通する特徴としては、こんなものがありそうです:
  • 商品を前面に打ち出さない。
  • ブランディングに貢献。
  • 尺(時間)など定型フォーマットは無い。
  • 感情に訴える
  • Webでしか視聴できない、など

これは、以下のようなテレビCMの反省を踏まえた上で目指している方向のようです。つまり、動画広告とテレビCMは(少なくとも昨夜の登壇者の間では)「全くの別物」と考えられています:
  • 商品説明が多すぎる。
  • 商品の認知度向上中心。
  • 尺が15秒・30秒に固定されているなど、定型フォーマットあり。
  • 番組中に強制的に視聴させている。
  • 嫌われている(録画視聴の場合には飛ばされる)
  • 見たいものを必ずしも見ることができない(放送時間が分からない)、など

イマドキの動画広告については、「バズらせてほしい(口コミで広めてほしい)」「100万ビューほしい」など広告主サイドの期待は高い(加藤氏)そうなのですが、必ずしも思い通りにいかないのが悩みとのこと。力を入れて作ったのに1,000ビューくらいで終わってしまった、というケースもあったり。

さて、ここで印刷物の出番です!
印刷物は、ブランディングに強いメディアです。しかも、クリエイション重視の動画広告は、グラフィックデザインを駆使できる印刷メディアと相性が良さそうです。また、最新の印刷技術を使うことで、バージョニング/パーソナライズなど受け取り手にあわせて内容や表現を変更することもできます。これは「バズる」効果を高めます。

動画広告をバズらせたいマーケティング担当の皆さま、これからは印刷物を使いましょう!そして、印刷物を使われる際にはぜひ私にお声がけください (^ ^) 最高の印刷技術&デザインスキルを駆使したバズらせ効果の高い印刷物で、ご自慢の動画広告を広く視聴していただきましょう♪

2014年9月24日水曜日

「デジタル・マーケティング x デジタル印刷」という事業機会

今回、ad tech Tokyo 2014に参加して分かったのは、「パーソナライズされたメディアをタイムリーに提供すること」がデジタル・マーケティングにおける大きな話題のひとつだとということです。しかも、広告主の視点からみた場合、クロスデバイス/クロスメディアでタイムリーなone-to-oneマーケティングを実現することが求められています。

ad techらしく、会場では「ソーシャルメディア」「エンゲージメント」「ビッグデータ」など比較的広く知られているサービスに加えて、「ネイティブ広告」「SSP」「DMP」「プログラマティック」「キュレーションメディア」といったさまざまな新しい言葉/考え方/サービスが取り上げられていました。デジタル・マーケティングの世界では、これらを活用しパーソナライズされたメディアをタイムリーに提供しようとしています。

もちろん、これらの最新技術・最新サービスを理解し、自社の印刷サービスに組み込むことができれば、印刷会社にとって素晴らしいことだと思います。しかし、それは必ずしも不可欠ではありません。印刷会社にとって大切なのは、「パーソナライズされた印刷物をタイムリーに提供すること」です。そして、これはデジタル印刷を使えば可能です。

これまで、デジタル・マーケティングと印刷を全く別ものと考えていた方も多いかと思います。これは印刷会社に限らず、企業のマーケティングご担当者、デジタル・マーケティングに関わる方々でもそうだと思います。

しかし、デジタル印刷機が広く使われるようになり、デジタル印刷向けソリューションも充実してきている今、デジタル・マーケティングとデジタル印刷を組み合わせたサービスは、十分に現実的です。

ところで、下の写真はTwitter社によるキーノートで撮影したものです。Twitterは、自社をUnpredictable(予測できないこと)と位置付けています。また、会場でよしもとクリエイティブ・エージェンシーとの提携が発表されました。例えば、こうした動きをしているTwitterと組み合わせたデジタル印刷サービスには、どのようなものが考えられるでしょうか?

刺激的で市場規模も大きい魅力的な新規サービスを探している印刷会社の皆さん、この事業機会をぜひ実現してください!また、お手伝いが必要な際には、ぜひお声がけください (^ ^)

2014年9月22日月曜日

ad tech Tokyoに見る新規印刷サービス機会:アマゾンと楽天の相違から

2014年9月16日〜18日、東京国際フォーラムでデジタル・マーケティングのイベント、ad tech tokyo 2014が開催されました。私は今回が初めての参加でしたが、登壇者の豪華な顔ぶれや活気溢れる展示会に圧倒されつつも、また印刷業界からの参加にアウェイ感(笑)を覚えつつも、とても刺激的で楽しい時間を過ごしました。

キラ星のようなスピーカーの中には、楽天とアマゾンという日本と世界を代表するECサイトの方々が含まれていました。両社ともたくさんの優良なユーザーを抱え、また質の高い顧客データを大量に持っています。特に、年齢・性別・住所といったデモグラフィックデータではなく、ライフスタイルを切り口にしたセグメンテーションが求められる昨今、この両社が持つ購買データの価値はとても高いものになっています。

今回、この2社から「自社の広告プラットフォームとしての価値」という切り口でお話しがありました。面白かったのは、両社の(少なくとも私が受け取った)メッセージが、以下のような違いを持っていた点です:
  • 楽天:ウチは、こんなスゴいデータを持っています!ちなみに、ウチのデータを使うとこんなコトができます:
    • 例:楽天とサントリー製品の相性の良さが分かります。
  • アマゾン:ウチを使えば、こんなスゴいプロモーションができますし、良い結果も出ます!その理由は、スゴいデータを持っていて、その使い方も知っているからです:
    • 例1:ソニー 4Kテレビ
    • 例2:ニベア
    • 例3:ペプシコ フレッシュ・ジュース
    • 例4:日産 Versa(日本名:ティーダ)
    • 例5:アイリスオーヤマ

データを欲しがっている方には、楽天のメッセージが有効かと思われます。しかし、結果を出すことを求められている多くの広告主にとっては、アマゾンのメッセージの方が魅力的だと思います。

ところで、楽天とアマゾンのメッセージの「データ」を「印刷機」に置き換えると、以下のような印刷営業トークになりそうです。皆さんは、どちらの営業トークが顧客にとって魅力的だと思いますか?あるいは、印刷会社の利益率を高めることができる営業トークは、どちらでしょうか:
  • A社:ウチは、こんなスゴい印刷機を持っています!ちなみに、ウチの印刷機を使うとこんな印刷物ができます。
  • B社:ウチを使えば、こんなスゴいプロモーションができますし、良い結果も出ます!その理由は、スゴい印刷機を持っていて、その使い方を知っているからです。

そういえば、楽天がユーザーの効果的・効率的な「情報収集」に焦点を当てる一方、アマゾンは繰り返し"create experiences" (経験・体験を創造する)とおっしゃっていました。印刷会社も、単に情報を伝えるための印刷物ではなく、「経験・体験を創造する」印刷物を提供するよう転換するタイミングなのかもしれません。

ad techは、新しい印刷サービスを考える上でとても参考になるイベントでした。デジタル・マーケティングと印刷サービスは、私たちが考えているより近いもののようです。
次回も、ad techで得た新しい印刷サービスのヒントをご紹介します。お楽しみに!

2014年8月25日月曜日

考えるな、感じろ!


米国ハーバード大学が出版する雑誌『ハーバード・ビジネス・レビュー 20147月- 8月号』に、”The Ultimate Marketing Machine”(究極のマーケティングマシーン)という、なかなか刺激的なタイトルの記事が掲載されています。これは、効果的・効率的にマーケティングの目的を果たす(あるいは課題を解決する)組織についての記事なのですが、この中で以下のような面白いモデルが紹介されています:
  • Think(考える)」「Feel(感じる)」「Do(実行する)」の3つの要素(能力)を組み合わせて目的を果たす:
    • Think(考える):データの収集・分析能力:
      • 市場調査担当者、メディアミックスの設計担当者、ROI最適化担当者などに求められる能力。
    • Feel(感じる):カスタマーエンゲージメント能力:
      • 広報担当者、顧客サービス担当者、SNS・オンラインコミュニティ担当者などに求められる能力。
    • Do(実行する):コンテンツの企画・制作能力:
      • コンセプトクリエイターやデザイナー、コンテンツ制作担当者などに求められる能力。
  • 目的・課題に応じて、3つの要素(能力)の組み合わせ比率を変える。
  • 目的達成に必要な人材は社内外から適宜集める。
  • 素早さがカギ。数週間〜数ヶ月程度の期間で、計画立案から目的達成まで。
  • マーケティング責任者の役割は、3つの要素(能力)の比率を決めて人材を揃えて素早く目的を達成する “Orchestrator(オーケストレイター、コーディネイトする人といった意味でしょうか)”

Don’t Think, Feel.(考えるな、感じろ)」というのはブルース・リーの有名なセリフですが、今の時代、印刷会社の中にも「考えるな、感じろ!」という役割のスタッフが必要なようです。

最近、「聞く力」や「共感力」などが話題ですが、これを従来のマーケティング活動にどう融合するのが良いのか、実は私には良く分かっていませんでした (^ ^; しかし、「Feel(感じる)」の一部だと考えると、スムーズに取り入れることが出来そうです。

さて、このモデルの観点からみると、印刷会社がマーケティング力を高めるためには、以下のような取組みが必要になります:
  • Do(実行)だけでなくThink‘(考える)やFeel(感じる)の能力を高める。
  • 課題に応じてThinkFeelDoの比率を変えるスキルを習得する。
  • 課題に応じて、外部資源を活用する能力を高める。
  • 素早く課題を解決する能力を高める。

なお、こうした能力・スキルは、社長やマーケティング責任者だけでなく、組織として習得することが求められます。この記事によれば、「マーケティングは、マーケティング担当者だけに任せるには重要すぎるものとなった。受付からITスペシャリストまで全ての社員が、マーケティングに従事しなければならないのである。」

こうした能力を高めること/スキルを習得することは、自社のマーケティング力を高めることはもちろん、顧客企業(印刷物発注企業)のマーケティング力向上への貢献力も高めることにもつながります。

他社とは違うマーケティング力を身に付けたい印刷会社の皆さん、ぜひこの「考えて、感じて、そして実行する」モデル作りに取り組みましょう!

2014年8月19日火曜日

drupa大胆予測 (2):drupa2020では『ペーパーエレクトロニクス』が大きな話題に!

drupa2016に引き続き、今回は2020年開催drupaのトピックを予想したいと思います。ここまで先の話だと、妄想なのかもしれませんけど(笑)

さて、今年3月にロンドンで開催されたIPEX2014のプリンテッドエレクトロニクス (PE)コーナーで、Ceradropというフランスの会社の方とお話ししました。その方はインクジェットヘッドの制御ソフトウェアをご担当されている方なのですが、お話しの中で「PEを商業印刷に応用したい」と仰っていました。

「PEを商業印刷に応用すると、どんなことができるの?」
「(お渡しした名刺を見ながら)例えば、これの名前やロゴの部分を光らせたりできるようになるんだ。あと、音を出せたり。通信ができるポスターもできるようになるよ。」
「(スマホを手に取って)将来、スマホの充電器もいらなくなるかも。スマホケースに太陽電池を印刷すれば、ケース自体から充電できるようになるからね。」
「いつ頃、実現できそう?」
「まだ分からない。でも、こういう風に使いたいという広告主が出てくれば、結構早く実現できるような気がする。技術開発は、落としどころがはっきりしていると、どんどん進んだりするからね。実は、今回の展示会でも、PEの商業印刷応用に興味がある人を探しているんだ。」
「そういう人、見つかった?」
「ぼちぼちかな。でも、興味を持ってくれる人は結構いるよ。」

実は昨年(2013年)、花王のマーケティングご担当者から、ニベアがブラジルで展開した『太陽電池が印刷された雑誌広告』を使ったキャンペーンのお話しをお伺いしていました。恥ずかしながら、その時は「面白い!」程度の感想しか持ちませんでした。しかし、Ceradropの方のお話を伺いながら「これって、もしかして印刷産業の大きな事業機会になるかも」という思い(というか妄想(笑))が大きくなりました。

ふと会場を見渡すと、PE x 商業印刷物の事例も展示されていたりしました。こちらのポスターもそのひとつで、ドラムセットの部分を触ると音が出ます。ただ、これが「音が鳴るポスター」だとあまり知られていないようで、触っている人は少なかったようです。

ちなみに、このポスターは英国の印刷通販会社MOOで制作したもののようです。たまたまIPEX視察時にMOOも訪問させていただいたのですが、社内に同じものが貼ってあって、その制作秘話もお伺いしました。MOOはとても面白い会社さんで、私の中では「世界で最もマーケティング力の高い印刷会社」という位置付けです。機会があったら、MOOの分析もこのブログでご紹介したいと思います。

話は元に戻しますが、帰国後に調べてみたところ、PE x 商業印刷のような『紙のエレクトロニクス応用=ペーパーエレクトロニクス』は様々な分野で大きな注目を集めていることが分かりました。例えば、クラウドファンディングサイトKICKSTARTERではペーパーエレクトロニクス分野のベンチャー企業が予定額を大きく上回る資金を調達していたり、スウェーデンの森林業界が産業の発展に寄与する研究を表彰するThe Marcus Wallenberg賞では、今年はペーパーエレクトロニクス分野の研究が受賞したり。

この背景には、ウェアラブルコンピュータなど向けに「薄くて軽くて柔軟で環境に優しい基板」が求められていることがあります。一方、コミュニケーションの観点からも、ペーパーエレクトロニクスは印刷物の表現力・双方向性を大きく高めます。さらに、最近話題のIoT(モノのインターネット, Internet of Things)への貢献も十分に考えられます。ICチップを安く大量に「印刷」できれば、たくさんのモノをネットにつなげられるようになるのですから。これは、生産管理やサプライチェーンマネージメントにも大きな影響を及ぼします。

2020年のdrupaでは、ペーパーエレクトロニクス分野を印刷会社が開拓するための機材が、多くの出展社から提案されることになると私は考えます。ペーパーエレクトロニクスは、印刷会社はもちろん、印刷機材・資材メーカーにも大きな事業機会を提供することになるためです。

ところで、こうした流れを受けて、国内でも筑波大学 生命環境系 生物材料工学分野 環境材料系科学研究室 江前(えのまえ)教授を中心に「紙のエレクトロニクス応用研究会」が今年の7月に発足しました。こちらのサイトからペーパーエレクトロニクス関連の情報が随時発信されており、また今後は会員限定の交流会なども計画されています。私も参加しておりますので、ご興味をお持ちの方はお気軽にお声がけください (^ ^) 一緒に新しい分野を開拓しましょう!


2014年8月14日木曜日

ラベルフォーラムジャパン2014 レビュー

2014年7月22日・23日の2日間、東京国際フォーラムでラベルフォーラムジャパン2014が開催されました。ラベルフォーラムは主に「コンファレンス(セミナー)」と「テーブルトップショー(展示)」で構成されているのですが、その両方がとてもレベルが高く刺激的でした。

私も2日間会場に通ったのですが、今回のラベルフォーラムから以下のようなラベル印刷市場動向が見えてきたように思います:

  1. ラベル向けデジタル印刷ソリューションがどんどん進化していること。
  2. ブランドオーナーとの協業の余地はまだまだ大きいこと。
  3. デジタル印刷を活用するにはアイデアが重要なこと

1. ラベル向けデジタル印刷ソリューションがどんどん進化していること:


今回のテーブルトップショーには、以下のデジタル印刷機が「参考展示」されていました(各製品の写真や主なスペックは下図参照):

  • エプソン L-6034VW
  • コニカミノルタ x ミヤコシ bizhub PRESS C71cf/ MKD13A
  • エプソン 産業用小型インクジェット機(製品名未発表)
  • 沖データ 小型LEDトナー式ラベルプリンター(製品名未発表)

これらの製品を見ていると、ラベル用デジタル印刷機市場の多様化が進んでいることが分かります:

  • 印刷方式の多様化:電子写真(粉体トナー)機・UVインクジェット機・水性顔料インクジェット機
  • 用紙幅の多様化:3インチ・128mm・330/ 340mm
  • 価格帯の多様化:ハイエンド(5,000万円程度)・ミッドレンジ(1,500万円程度)・ライトプロダクション(100万円以下)
  • プレーヤーの多様化:沖データもラベル市場への本格参入

また、参考展示製品も含めて、多くのデジタル印刷機は「後加工機」との連携も意識した展示となっていたのが印象的でした。あわせて、会場にはAlwan社のカラーマネージメントソリューションなど数多くのソフトウェアも紹介されていました。今回のテーブルトップショーを通じて、印刷の前後も含めたラベル印刷用ソリューション全体がどんどん進化していることが見えてきました。


2. ブランドオーナーとの協業の余地はまだまだ大きいこと:

2日間のコンファレンスでは、キリンや中外製薬、生活協同組合連合会(コープ)など、ブランドオーナー(発注者)によるセミナーも開催されました。これらのセミナーでは、以下のような具体的な技術課題に対してどのように解決策を見つけたかという、現場感溢れるお話しをお伺いできました:

  • 生産速度600bpm(毎分600本)の高速環境下でレーザーマーキング印字に対応する(キリン)
  • (分割ラベルにおいて)うまくラベルを引き裂くことができない(中外製薬)
  • 再利用容器の場合、使用済みラベルをはがしにくい。はがしやすさを考えて粘着度調整をするので、はりにくい(コープ)

印刷会社はついつい「印刷品質」に注目するのですが、ラベルを使う現場では印刷品質以外の課題も多いようです。現場で生じるこうした課題も視野に入れたサービスを企画・提供すること。これも印刷会社の大きな事業機会だと思います。

また、ラベル新聞社によるセミナーでは、バリアブル(可変)やバリアフリーなど、ラベルの進化の方向性が示されましたが、ブランドオーナー側のセミナーではこれらについて触れられることはありませんでした。

ただ、例えばキリンでは、バリアフリーについてはラベルではなくビールが入った容器(ビンや缶など)で対応が進んでいます。ここから、バリアフリーは「ラベル」という単位で考えるのではなく容器も含めて考えた方が良いことが分かります。つまり、バリアフリーについては、ラベルご担当者よりも商品そのものの企画ご担当者に提案することが求められそうです。

また、バリアブル(可変)ラベルは、小売店側の欲求も重要になると考えられます。ということは、バリアブルラベルの提案は、メーカー・流通双方に対して行うことが必要になります。

ラベルの新しい可能性を切り拓く際には、これまでとは異なった立ち位置でブランドオーナーと協業する必要がありそうです。


3. デジタル印刷を活用するにはアイデアが重要なこと:

どんどん進化を続けるラベル用デジタル印刷ソリューションは、価格的にも使い勝手という点でも印刷会社にとって導入し易くなっています。ただ、デジタル印刷で大きく売り上げ・利益を伸ばすためには、現在の仕事の置き換えではなく新しい需要を創造することが求められます。

今回のラベルフォーラムを通じて、「現場を視野に入れたサービス」や「ブランドオーナーと流通の両方を巻き込むサービス」など、新たな方向性が見えてきました。しかし、これを売上・利益増大に落とし込むには、独自のアイデアが必要不可欠です。

ラベルフォーラムでは印刷会社によるセミナーや展示もありましたが、そうした会社では新しい方向性のサービスを具体化する取組みが進んでいます。例えば、テーブルトップショーに出展していた(株)吉村では、とても面白い新サービスの企画が進んでいます。まだ発表されていないそうなのでこのブログに書くのは控えますが、「このサービス、いいね!」と多くの方が考えるものになりそうです。私も、早く実現していただきたいです (^ ^)

商業印刷会社など他分野の印刷会社の中には、ラベル印刷市場への新規参入を検討されているところもあるかと思います。ラベルフォーラムジャパン2014で明らかになったように、機材は導入し易くなり、ブランドオーナー(顧客)もまだまだ多くの課題を抱えています。こうした状況は、アイデア豊富な印刷会社にとって、とても魅力的だと考えられます。


ラベルフォーラムジャパンは、2年に一度のイベントです。次回(2016年)はdrupa開催年にあたりますので、さらに大きく進化した展示やセミナーが行われると思います。早くも今から楽しみです!


2014年7月24日木曜日

drupa大胆予測 (1):drupa2016は『B1 drupa』に!

IPEX2014が閉幕して間もない4月上旬、印刷機材業界の巨人ハイデルベルグ社がデジタル印刷市場向け戦略を発表しました。この中では、「インクジェット方式の商業印刷/パッケージ印刷市場向けシステム開発に着手すること」にも触れられています。

そして、このインクジェット機には、どうやらB1サイズの枚葉機が含まれているようです。ハイデルベルグ社からの発表資料では触れられていませんが、会見でハイデルベルグ社デジタル印刷部門シニアバイスプレジデントJason Oliver氏が言及されたようで、海外メディア(例えば、PrintWeek誌など)はこぞって取り上げています。

そういえば、昨秋(2013年9月)には、Landa社が紙器パッケージ市場向けB1サイズ枚葉インクジェット機 Landa S10FC Nanographic Printing Press のβサイトを2014年第4四半期に設置することを発表していました。

また、drupa2012の際にHP社ブースにいらっしゃった説明員(技術者)の方に「IndigoってB1サイズも印刷できるの?」とお伺いしたら「うん、技術的には可能だよ」というお答えをいただきました。「じゃ、何で今回はB2機(注:Indigo 10000/ 20000/ 30000)を出したの?」「マーケティングの人たちが『今回はB2機でいく』と決めたから」というお話しもお伺いできました。つまり、HP社も市場が盛り上がるようならB1サイズ枚葉機を出してきそうです。

もし、drupa2016でハイデルベルグ・Landa・HPが揃ってB1サイズ枚葉デジタル印刷機を展示したら、そのインパクトはかなり大きいと思います。その場合、drupa2016が『B1 drupa』と呼ばれる可能性は十分にあると考えています。

さて、B1 drupaが実現した際、私は以下3つの反応に注目したいと思います:

  1. パッケージ印刷会社の反応
  2. 後加工機メーカーの反応
  3. B2サイズ枚葉デジタル印刷機メーカーの反応
昨今の印刷市場動向から考えて、各社のB1枚葉デジタル機はパッケージ市場をターゲットにしたものとなるでしょう。パッケージ市場でも小ロット化が進んでいて、デジタル印刷機への注目が高まっているというお話しはお伺いします。

ただ、実際に数社から発表されたB1サイズのデジタル印刷機を見て、紙器パッケージ印刷会社がどのような反応を示すのか。「面白い!すぐ買おう!!」となるのか「うーん、もう少し様子見かな」となるのか。その反応に注目したいと思います。

また、後加工機メーカーの反応に要注目です。特にパッケージの印刷の仕事は、刷って終わりではなく加工が必要不可欠です。『抜き(カット)』については、型を使わずに高い生産性で作業できる、小ロットに適した機材が増えてきています。しかし、『筋入れ』については型無し&高生産性を両立する機材はなさそうです(私が不勉強なだけかも知れませんが (^ ^; )。

「デジタル印刷で紙器パッケージ」という市場を開拓するためには、後加工機メーカーの協力も大切になります。drupa2016会場で、後加工機メーカーがどのような小ロットパッケージ市場向けソリューションを提案するのか。こちらにも注目しましょう。

そして、B1機が出てきた時に、B2機はどのような位置付け・役割で提案されるのか、という点にもぜひ注目したいと思います。B2機が出てきた結果、従来(そして現在も)広く使われているA3サイズ枚葉機は、生産性よりも機能性が訴求されるようになりました。では、B1機とB2機の棲み分けはどうなるのでしょう?drupa会場では、B2機を販売する機材メーカーの提案にも注目です。

番外編として、来年9月に東京で開催されるIGAS2015にも注目しましょう!さらなるデジタル印刷の大判化・対応するアプリケーションの多様化が進みそうな drupa2016に向けて、どのような展示・セミナーが開催されるのか。折角なので、刺激的な展示会にしていただければと思います (^ ^)

2014年6月9日月曜日

『クオリティー企業』という方向性

6月8日(日)の日本経済新聞に一橋大学教授 楠木建氏のとても面白いインタビュー記事が掲載されていましたが、皆さんは読まれましたでしょうか?この記事によれば、楠木教授は企業を2つに分類しています。

ひとつめは、「外部環境のオポチュニティー、つまり追い風をつかまえて成長するのがうまい」オポチュニティー企業。人口が増え、経済成長が著しい新興国で伸びている企業がそれにあたります。そして、もうひとつは「風は追わずに、優れた戦略で会社の中から独自の価値をつくり出す」クオリティー企業。こちらは、風を待つのではなく自分たちでエンジンをつくるタイプです。

ところで、こちらのブログ記事でも触れましたが、これまでの取材から日米の印刷会社は顧客に対して「新しさ」を訴求する傾向が強く、英国の印刷会社は「顧客にとってどんな意味や価値があるのか」を訴求する傾向が強いことが分かりました。楠木氏流の言い方を借りれば、日米の印刷会社はオポチュニティー企業型、英国の印刷会社はクオリティー企業型のような印象を受けます。

しかし、楠木氏は記事の中で、「米国はオポチュニティー大国。長いこと先進国としてやっているが、永遠の若者だ。移民政策によって人口が増えている点が大きく、特殊な国。日本がまねをしようと思っても難しい。」と述べています。とすると、日本の印刷会社は先に成熟した英国市場を参考にすることが必要になりそうです。

実は、英国市場はインターネット広告市場の広がりという点でも日本の先を行っています。広告費全体に占めるインターネット広告費の比率は、英国の32%(2012年)に対して、日本は16%(2013年)です。こうした状況にも関わらず、英国印刷会社はクオリティー企業を指向しています。これは、英国がクオリティー国家だからだと思われます。

楠木氏は、「日本は『クオリティー国家』を目指すべきだ」と提言しています。国内印刷会社にとって、成熟した印刷市場で売上・利益を伸ばすために、英国流のクオリティー企業を目指すという選択肢もありそうです。

2014年4月11日金曜日

予想以上に刺激的なIPEX2014

2014324日〜29日の6日間、4大国際印刷機材展のひとつIPEX2014がロンドンで開催されました。今回は約400社の出展があり、コニカミノルタや富士フイルムなどのブースで意欲的な展示が見られたものの、ハイデルベルグやKBA、マンローランド、HP、コダック、キヤノン、リコー、ミヤコシといった主要な印刷機材メーカーが出展を取り止めるなど、これまでの印刷機材展とはずいぶん違った顔ぶれでの展示会となりました。

ただ、主要な印刷機材メーカーの不在によって、用紙に色や文字を印刷する以外にも印刷会社が利益を大きく伸ばせる機会はいろいろあることが、逆説的に見えてきたのがとても印象的でした。また、その機会を実現するための機材やサービスとして、以下のようなものも見えてきました:
  • 商業印刷向けバリアブル後加工機
  • 「攻め」のためのMIS
  • 産業用インクジェット技術の商業印刷への転用
  • 印刷物を使ったコミュニケーションの価値を最大化するビスポーク・サービス
  • Web上でも「おもてなし」、など

また、昨秋シカゴで開催された
PRINT13の取材結果と比較して、以下のような米国と英国の印刷会社の違いが見えてきたもの印象的でした:
  • 米国:印刷物・印刷サービスの「新しさ」を訴求する。
  • 英国:印刷物・印刷サービスが「顧客にとってどんな意味や価値を持つか」を訴求する。

実は、英国の印刷市場は結構元気です。英国の人口は日本の半分以下(約
6,800万人)ですが、印刷市場は161億ポンド(約25千億円)と日本の6割程度の規模となっています。また、印刷業界団体BPIF (British Printing Industry Federation)のアンケート結果によれば、印刷会社の55%が「事業は拡大している」と考えています。

この背景には、英国の印刷会社が提供している印刷物・印刷物の「顧客にとっての意味や価値」を真剣に考え、訴求していることがあると思われます。実際、IPEX会場や工場見学をさせていただいた印刷会社さんでお話しをお伺いしていると「英国の印刷会社さんって、ものすごく考えている」ことを強く感じました。

IPEX2014は、国際機材展に「最新の印刷機」を期待される方には物足りないものだったかもしれません。しかし、日本の厳しい市場環境を抜け出す逆襲の機会を虎視眈々と探している印刷会社の方々には、とても刺激的で参考になる展示会だったと思います。

IPEXの内容について何かご質問などございましたら、お気軽にお問い合わせください (^ ^) 面白いサンプルもお見せします♪よろしければ、今回宿泊した標準時で有名なグリニッジの写真もお見せいたします(笑)


2014年3月24日月曜日

ブライター・レイター流 IPEX2014の注目ポイント

本日(324日)から、英国・ロンドンで国際印刷機材展IPEX2014が開催されます。今回は、オフセット機・デジタル機ともに主要メーカーの多くが出展しないことから、「見どころのない展示会」という声も少なからず聞かれます。しかし、私は今回のIPEXでかなり面白い情報が収集できるのでは、と考えています。それは、英国は日本より一足先に印刷業界の集約化が進んでいるからです。

下のグラフは、今年の220日にハイデルベルグ・ジャパン主催のセミナーで紹介されたデータをもとに作成したものです。このグラフから、英国の印刷会社数は12年間でおよそ14,000社から10,000社減って4,000社になったこと、特にロンドンの印刷会社の減り方が激しいことが分かります。ハイデルベルグ社の方のご説明では、景気後退に加えて他国の印刷通販会社が英国の仕事を持って行っていることや、ロンドンの地価の高さがコスト競争力を引き下げていること、などがその理由として挙げられるそうです。

仮に、英国のシナリオが日本に当てはまると、日本市場はこんな状況になりそうです:
  • 印刷会社数が、現在の30%程度にまで減少する:
    • 特に、東京の印刷会社数が大きく減少する。
  • 海外の印刷通販会社が、日本国内の仕事を持って行く:
    • 欧州では、大抵の場所に印刷物を翌日配送できる状況にあるそうです。
実際に国内市場がこうした状況になるかは分かりませんが、念のためにこうした状況への対処法のアイデアを得ておくため、私は今回のIPEXで以下のようなポイントに注目して情報を収集したいと考えています:
  • 残った印刷会社/無くなった印刷会社の違い:
    • 製品やサービス内容、仕組み、顧客獲得方法、など
  • 残った印刷会社が、さらに競争力を高めるためのアイデア:
    • 商材開発・サービス開発、仕組み作り、顧客獲得方法、など
  • 英国の印刷物発注企業の戦略や課題、など

私は今回、5日間会場で取材をする予定ですが、このような観点で情報を収集・分析すると5日間でも全然足りそうもありません (^ ^; でも、折角の機会なので、セミナーに参加したりできるだけ細かくブースを回ったりしながら、いろんな方のお話しをお伺いしたいと思います。どんな提案が見られるのか、またどんなお話しが聞けるのか、とても楽しみです
(^ ^)


2014年2月17日月曜日

ゲーム作りの技術を印刷ビジネスに生かせ!

先週土曜日(215日)に名古屋で開催された印刷業界のイベントPrintNext2014 に、私は関東ブロック企画の分科会「ゲーム作りの技術をビジネスに生かせ!」のコーディネータとして参加しました。こちらの分科会では、以下のご登壇者によるプレゼンテーションやパネルディスカッションを通じて、ゲーム作りの技術を印刷ビジネスに生かすポイントやゲーミフィケーションARGと印刷サービスに組み合わせて提供する可能性などを明らかにしました:

  • ゆめみ 深田 浩嗣 氏(「おもてなし」とゲーミフィケーションの専門家)
  • オフィス新大陸 坂本 犬ノ介 氏(ARGの専門家)
  • 今井印刷 今井 孝治 氏(印刷人代表)
  • 真生印刷 齋藤 達郎 氏(印刷人代表)
  • ブライター・レイター 山下 潤一郎(コーディネータ)

この分科会のため、印刷人代表のご登壇者今井さん・齋藤さんを含む関東ブロック企画チームは、坂本さんのご指導・監修の下で昨年の夏から「印刷曼荼羅調査隊」というARGを実際に企画・実施しました。また、深田さんの講演をお伺いしたり著作を読んだりした上で、入念な事前お打ち合わせを重ねました。そのため、分科会では大きな成果を得ることができました。

例えば、ゲーム作りの技術を生かすことで、印刷会社は下図のように「常識をぶち壊す」ことができます。また、ゲーミフィケーションやARGを印刷サービスの一部として提供することも十分考えられます。その理由として、以下のような点が挙げられました:

  • 「コミュニケーションによって顧客企業の課題を解決する」という立ち位置は、印刷サービス・ゲーミフィケーション・ARGに共通するため、協業の余地が大きい。
  • スマートフォンやウェアラブルコンピュータなど、技術革新はこれからも続く。ゲーミフィケーションやARGにこうした新しい動きを取り込み有効に活用するため、印刷会社の協力も必要となる。
  • 特にARGでは、リアル(現実)におけるコミュニケーションも成功の大きな要因になるため、印刷メディアの役割が重要になる。

坂本さんからは、幕末150周年イベントを盛り上げるためのARGについて山口県の印刷会社から問い合わせがあったことや、折込チラシにARGを組み合わせることで、スーパーの集客力(および店頭の面白さ!)が高まるアイデア、ARGは販促だけでなくCSRなど幅広く適用できることなども、お話しいただきました。

ただ、時間不足のため、ゲーム作りの技術をどのようにマネタイズするか(長期利益に結びつけるか)という点にまで踏み込むことができなかったのは残念でした。とはいえ、午前中の2つの基調講演(侍ハードラー 為末大氏、一橋大学イノベーション研究センター教授 米倉誠一郎氏)で出てきたキーワードのひとつである「自社を再定義する」(自社の戦う場所(事業領域)・その場所での立ち位置・仮想ライバルなどを再検討する(ずらす))にも呼応した、とても面白い内容だったと思います。

ところで、中小規模の印刷会社がゲーム作りの技術を持つことで、グローバルな大企業とも直接取引できる可能性も高まりそうです。印刷業界では概して「大きな印刷物発注企業と取引するのは大きな印刷会社」と考えられているような気がします。改めて考えると、ゆめみもオフィス新大陸も(失礼な言い方かもしれませんが)それほど規模の大きな会社ではありません。しかし、才能が豊かであるため、グローバル企業を含む大きな企業と直接取引されています。

もちろん、全ての印刷会社が大きな企業と取引する必要はありません。しかし、ゲーム作りの技術を生かすことで、そういった印刷業界の「常識をぶち壊す」ことに挑戦する中小規模の印刷会社が出てきても良いかと思います。それもイノベーションのひとつだと思われます。

今回の分科会では、ゲーム作りの技術はさまざまな印刷業界の「常識をぶち壊す」ことに有効であることが示されました。ぜひこの成果をもとに長期利益を実現しましょう!
なお、分科会の詳細はPrintNext会場で配布されたコンテンツブックをお読みいただくか、関東ブロック企画チームのメンバーにお気軽にお問い合わせください (^ ^)


2014年2月14日金曜日

印刷会社の新規需要創造パターン

世間では景気回復という言葉が使われる機会が増えていますが、印刷業界ではまだまだ厳しい状況が続いています。しかし、厳しい市場環境においても、新規需要を開拓することで事業拡大を実現している印刷会社もあります。

そうした印刷会社の新規需要創造の成功パターンを分析すると、以下のようにまとめられそうです:
  • 既存顧客の新規需要:
    • 顧客に対するサービスの)PDCAサイクルを回す中で提案する。
    • 「ホーム」に顧客を招く:
      • ホーム:自社の工場、ショールームなど
  • 新規顧客:
    • ホームページを活用する。
    • (顧客間の)口コミで広まる。
    • マスコミ(テレビ、雑誌、新聞)を活用する。
    • ターゲット顧客層の展示会に出る。
    • ターゲット顧客層を(DMなどで)じゅうたん爆撃する。

さらに、これらのパターンを「印刷会社から声を掛ける」「相手から声を掛けていただく」というパターンに分けると下図のようになりますが、この図からはいろいろなことが見えてきます。


例えば、左下の部分にあたる「(全く働きかけをしていないのに)既存顧客から声を掛けていただく」というパターンで新規需要を開拓している例は、私の勉強不足もあるかもしれませんが、お伺いしたことがありません・・・既存顧客の新しい需要は、日々の営業活動、しかも提供するサービスの質を高めるためのPDCAサイクルを回す中で、提案を通して創造することが必要不可欠なようです。

また、フォトブックのような新規顧客層の開拓も伴う商材で新しい市場を創造する場合には、自社からターゲット顧客層に対して、展示会やDMなどを通じて積極的に働きかけることが必要不可欠です。あるいは、Webを本気で活用すること、潜在顧客間での口コミで広まる仕掛けを作ること、マスコミに取り上げてもらえるよう広報力を高めること、などを通してお声掛けいただく機会を増やす努力が重要になります。つまり、新規顧客の需要を創造するためには、これまでとは大きく異なるマーケティング活動が求められます。

先週開催されたpage2014でも、印刷営業のスキル向上を支援するサービスが紹介されていました。印刷会社が新規需要を創造するためには、印刷営業スタッフの提案力を高めることはもちろん大切です。しかし、工場見学会を開催することや、Webサイトを活用すること、ターゲット顧客層に対して展示会などで積極的に働きかけることなど、新しいマーケティング活動に取り組むことも不可欠です。

2014年に「攻め」に転じることを目指す印刷会社の皆さま、ぜひマーケティングへの取り組み強化を通じて実現しましょう!

2014年2月10日月曜日

page2014レビュー:スキルレス時代の稼ぎ方

page2014は、2月5日〜7日の3日間、サンシャインシティコンベンションセンター(東京・池袋)において「始動!コミュニケーション・ファクトリー」をテーマに開催されました。JAGATの発表によれば、来場者数は3日間合計で65,220人で前回(64,760人)を僅かですが上回りました。

pageでは毎回、最新印刷機材の紹介とあわせて、印刷会社の「稼ぎ方」も提案されています。今回のpageを取材して見えたことのひとつに、多くの印刷会社はいまだにスキルレスをウリにした印刷機材を活かした(あるいは使わない)稼ぎ方を模索中であることが挙げられます。スキルレス時代のコミュニケーション・ファクトリーの稼ぎ方には、以下のようなものがありそうです:
  1. コスト競争力で稼ぐ
  2. 印刷以外のメディアを絡めて稼ぐ
  3. 内製化で稼ぐ:
    • 前後のプロセスを内製化して長期利益を伸ばす。
  4. 商材を増やして稼ぐ:
    • スキルレス機材を活かして、新たな分野の商材を提供する。
  5. 企画力・相談力で稼ぐ
  6. 新しい顧客層で稼ぐ
  7. あえて高いスキルで稼ぐ
今回のpageでは、1・2が多く目に付いたものの、3〜5も含めて幅広く紹介されていたかと思います。特に今回は、小ロット対応・オンデマンド対応を意識した後加工機がさまざまなブースで紹介されていたことから、3(資金力のあるところにとっては4)の可能性が大きく高まっているように感じました。「刷って終わり」という時代が本格的に終焉しつつある、というか。

ただ、6や7のようなパターンの紹介があまり見られなかったのが少々残念です(単に私が見落としているだけかもしれませんけど (^ ^; )。私は、個人や小規模事業者、海外市場といった新しい顧客層に向けたサービスは、非常に大きな可能性があると考えています。また、スキルレス時代だからこそ、職人技的なデザイン、文字組版、印刷、加工の価値が高まると思います。

興味深かったのは、日本フォーム印刷工業連合会(2F DT-4)のブースで、6のパターンのひとつであるスマートフォンを使った個人向けサービスが紹介されていたことです。太平洋印刷はスマホから絵はがきを注文できるサービス「絵はがき」「投函しま〜す」、カワセコンピュータサプライはスマホから長尺ポスターを注文できるサービス「スマホ de ポスター」をそれぞれ紹介していました。

そういえば、初日の午前中に受講したPODiのセミナーで北米のデジタル印刷市場規模予測が紹介されたのですが、大きく伸びているデジタル印刷市場の中で請求書(下の写真の Transactional)だけは縮小傾向を示していました。こうした市場動向を反映して、フォーム印刷会社では新しい取組みが進んでいるようです。

2014年、印刷会社はpageで得たものを活かして、どのような稼ぎ方で攻めに転じて長期利益実現に踏み出すのでしょう。この際には、1〜7の複数を組み合わせることも効果的です。例えば、1・3(・5も少々)・6を組み合わせて、個人や小規模事業者向けの商材特化型印刷通販サービスを企画・提供するとか。いろいろなビジネスモデルが出てきそうで、とても楽しみです (^ ^)

2014年2月3日月曜日

「工場のマーケティング力」を強化すべし!

御社の工場にたくさんの既存顧客(印刷物発注企業)や潜在顧客、パートナー企業が連日集まり、みんなで活発に意見を交換し、どんどん新しい仕事が生まれ、御社のブランド力も高まる。こうした野望(笑)も、「工場のマーケティング力」を強化すれば、十分可能になります。

そもそも、大人も工場見学は大好きです。少々古いデータではありますが、20123月にJTBが発表した「工場見学」に関するアンケート調査によれば、回答者の63%が工場見学の経験あり、経験のない方々の76%が工場見学をしてみたいと回答しました。工場には、たくさんの人を集めるパワーがあります。「工場のマーケティング力を高める」ことで、そのパワーをより強力なものにできます。

ここ数年、マーケティング力強化を進める印刷会社も増えていますが、その際、何故だか営業のスキルアップの一環として取り組みところが多いような気がしています。マーケティングと営業は別の業務であり、異なるスキルが求められるにも関わらず、です。

マーケティングの大家フィリップ・コトラー氏によれば、営業担当者の仕事は注文を取ること、マーケティング担当者の仕事は需要とブランドを創造することです。工場のマーケティング力を高める = 工場で需要とブランドを創造する取組みは、営業の受注力向上を実現するものでもあり、決しておかしなことでも間違ったことでもありません。

では、「工場のマーケティング力」を強化するにはどうすれば良いのでしょうか?例えば、以下のような取組みを進めることが求められます:
  • 工場に遊び心を持たせる。
  • 「顧客の顧客」に刺さる印刷物を製造する。
  • 設備のマーケティング寿命を意識する。
  • 積極的に情報発信する。

多くの顧客(印刷物発注企業)や潜在顧客、パートナー企業の方々が集まり、常に新しい仕事が生まれ、ブランド力を高めるためには、やはり何かしら楽しい仕掛けが必要になります。また、顧客が狙ったその顧客(印刷会社からみれば「顧客の顧客」)にしっかりと刺さる実際の印刷物へと、議論の成果を落とし込む力も重要です。その際、利益率を高めるためにこちらの記事でご紹介した設備のマーケティング寿命を意識すること、一連のサイクルにもっと多くの方々を巻き込むために積極的に情報発信することなども、必要不可欠になります。


この詳細については、株式会社ショーワの「ショーワ新春フェア」と同時開催の講演会「聞かなきゃ損する!未来を破壊する印刷会社の戦略」(213日(木)14時〜@東京・西神田)で、国内外の先進企業の事例を交えてお話しさせていただく予定です。定員30名のイベントですので、皆さんお早めにお申し込みください!会場でお会いできるのを楽しみにしております (^ ^)


2014年1月29日水曜日

後加工機が印刷会社の受注できる仕事を決める!?

「所有している後加工機で、印刷会社の受注できるオンデマンドの仕事は決まる」

これは、ある印刷会社のデジタル印刷サービス責任者の方からお伺いした言葉です。確かに、オンデマンドの仕事では外注に出す時間的な(あるいは利益的に)余裕がない場合が多くあります。そのため、後加工まで含めて内製化できる仕事が、受注できる仕事内容になります。

改めて考えると、最近ではオンデマンド性が求められる印刷の仕事が増えています。ということは、先ほどの発言は「所有している後加工機で、印刷会社の受注できる仕事は決まる」と言い換えることも可能になりそうです。もちろん、納期(そして利益率も)を十分に確保できる仕事については、この言葉は必ずしも当て嵌まりません。しかし、そうした仕事は、皆さんもご存知の通り、減ってきています。

昨秋(201311月)に全印工連から「印刷産業性長戦略ビジョン2013 『印刷道』〜 ソリューション・プロバイダーへの深化 〜」が発行されました。この中で「ソリューション・プロバイダーの6類型」という、印刷会社が進化し得る6種類の方向性が示されています。このうちどのパターンを選んだとしても、オンデマンド印刷が含まれるサービスを提供する場合には、所有する後加工機がそのサービス内容に大きな影響を及ぼしそうです。

一昨年に開催されたdrupa2012以降、オンデマンド後加工機に対する注目も高まっています。昨年開催されたJGASでは製本の分野を中心にオンデマンド後加工が、ラベルエキスポヨーロッパではシール・ラベルのオンデマンド後加工ソリューションが大きな話題となりました。

今後は、これらの分野に加えて、市場の拡大が見込まれるパッケージ分野、あるいはさらなる効果・効率の向上が求められるDM分野などにおいて、面白いオンデマンド後加工ソリューションが出てきそうです。後加工ソリューションの進化に伴い、印刷会社の事業がどのように展開していくのか、とても楽しみです (^ ^)

2014年1月23日木曜日

今、印刷会社に『考える力』が必要なワケ

経営戦略の大家マイケル・ポーター氏は、「競争の戦略」において業界の競争構造を分析する「5つの競争要因」というフレームワーク(考える枠組み)を示しました。これに沿って分析すると、印刷業界の競争構造が25年前(印刷業界の最盛期)と現在では大きく異なっていることが分かります。

25年前には、印刷会社の競争業者(競合他社)との差別化は、主に設備や生産スキルによって実現されていました。設備は高額で、またその活用には高いスキルが必要不可欠だったため、他業種からの新規参入は限られていました。買い手(印刷物発注企業)にとっても、販促活動や社内の管理・教育などさまざまな面で印刷物は必要不可欠で、しかもその代替品はありませんでした。売り手(機材や資材のメーカー・販売会社)は、印刷会社が選ぶものでした。

この分析から、この当時の印刷業界は構造的に比較的利益を出しやすい状態だったことが分かります。先日、ある印刷営業の方から「昔は、印刷の仕事だけを真面目にやっている会社が潰れたという話は聞いたことがなかった」というお話しをお伺いしたのですが、その背景には利益を出しやすい構造という特徴があったのです。

しかし、現在では大きく状況が変わっています。電子メディアが印刷物の代替品として広く使われるようになり、その結果買い手(印刷物発注企業)にとって印刷物はなくても良いものという位置付けになりました。また、デジタル印刷機など機材の高機能化・スキルレス化・低価格化により、印刷の内製化を進める発注企業も増えてきています。

買い手の意識が変わるに連れて、競争業者(競合他社)との差別化は価格と納期が中心になりました。その結果、印刷市場への参入障壁も低くなり、インターネットのポータルサイトであるヤフーがラクスルに出資したり、電通オンデマンドグラフィック社がPPO(プロモーションプロセスアウトソーシング)推進協議会を設立したり、といった形で他業種からの新規参入も増えており、今後も増えることが見込まれます。

売り手からの圧力も高まっています。円安が進んだことから輸入している原材料の価格が上がり、そのため印刷機材・資材の価格も値上がり傾向にあります。また、売り手側の経営環境も厳しい状況が続いていることから、売り手側から印刷会社が選ばれるという状況も多くなっています。

印刷業界の競争環境がこのように大きく変わった結果、印刷業界は利益を出すのが難しい構造になりました。つまり、今後景気が良くなったとしても、利益を出しにくい『構造不況』の状況は残念ながら変わりそうもありません。

ところで、経営学者の楠木建 一橋大学大学院教授によれば、長期にわたって利益を実現するための源泉には「競争構造」と「戦略」の2つがあります。利益を出すのが難しい競争構造の業界では、優れた戦略が長期利益の実現に大きく貢献します。つまり、現在の印刷業界では、優れた戦略を『考える力』こそが長期利益の実現に必要不可欠なのです。

そういえば、昨日は新潟の学校アルバム印刷会社 博進堂さん主催のセミナー「2014年 博進堂ゼミナール」に参加させていただいたのですが、その中でも「考える」という言葉が繰り返し使われていたのが印象的でした。参加者は写真館・カメラマンの方が中心だったのですが、写真館さんやカメラマンさんにも考える力が重要とされる時代なのですね。印刷業界もうかうかしていられません。

2014年は、『考える力』を鍛えることで、長期利益の実現に向けて大きなそして力強い一歩を踏み出しましょう!『考える力』強化のお手伝いが必要な際には、お気軽にお声がけください (^ ^)

2014年1月20日月曜日

印刷機材のマーケティング寿命にどう対応してますか?

拙訳書「未来を破壊する」の中で、ジョー・ウェブ博士は印刷機材の『マーケティング寿命』という考え方を提示しています。この言葉は、その印刷機材が「どの程度の期間、市場のニーズを満たすものを生産できるか」を表しています。これに対して、印刷機材の『機械寿命』は、物理的にどの程度使えるかという期間を表します。ウェブ博士は、機械寿命よりもマーケティング寿命が短いことも、あわせて指摘しています。

「未来を破壊する」について多くの方々からご意見・ご感想をいただいていますが、その中でもマーケティング寿命への反応が比較的多いように感じています。特に、戦略重視型の印刷会社の方からこの言葉に共感いただいているのが、とても面白く感じています。

また、国内外の印刷会社を問わず、このマーケティング寿命を意識した印刷設備導入・活用戦略を進めているところが多いことも見えてきました。例えば、35年で投資を回収し、常に最新の印刷機材を活用することで競争力を高める戦略を採用している印刷会社も少なくありません。この中には、こちらの記事(精工はHP Indigo 20000をどのように活用するのか?)でご紹介した精工や、最新機種で効率性を高め続けているタイプの印刷通販会社などが含まれます。

これに対して、どんどん機材を改良(というか改造)することで、マーケティング寿命を延ばすという戦略の印刷会社もあります。PRINT13の際に工場見学をさせていただいた米国のDM印刷会社SG360社、国内ではフォーム印刷会社である内外カーボンインキの関東久喜工場(埼玉・久喜市)などがその例です。

印刷(プレス)の前後の工程(プリプレス・ポストプレス・フルフィルメント)を含めた仕組み全体をシステム化し、それを進化させることで市場が求めるサービスを提供することを目指す印刷会社もあります。このケースは、印刷通販やWeb to Printサービス、デジタル印刷サービスなど、小ロット・多品種の仕事が多い印刷会社に多くみられます。

機材の購入方法という点でも、マーケティング寿命を意識したものが取り入れられています。米国の印刷会社の中には、印刷機材を定価(あるいはそれに近い)価格で購入する代わりに、「いついつまでに仕事が立ち上がらなかったら返品する」という条件をつけるところもあるそうです。

このように、印刷会社の間では、機材のマーケティング寿命を意識した導入・運用戦略の実践が広まりつつあります。では、印刷機材メーカーの側ではいかがでしょう?最近、連続紙用インクジェット機の分野では、色数や生産性を変更できるオプションがついている機種も増えてきています。ただ、短いマーケティング寿命の間に大きく稼いだり、マーケティング寿命を延ばしたりすのに必要な要素は、色数や生産性だけとは限りません。2014年は、印刷会社が求めるようなマーケティング寿命に対応した機材を開発・提供できる仕組みを、印刷機材メーカーにぜひとも構築していただきたいと思います。