印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2013年6月21日金曜日

印刷会社の競争戦略分析

印刷会社の取組みを『競争戦略』の面から評価・分析すること。
これが、「印刷情報 6月号」(印刷出版研究所)に掲載された記事「ハイブリッド印刷の最新動向 〜 国内市場における成功のポイント」を書いた際の目的のひとつでした。

これまで、「機材の導入・活用」「人材教育」「環境対応」「グローバル展開」「経営の心構え」などさまざまな視点から印刷会社に関する記事が書かれています。しかし、「競争戦略」という視点で書かれた記事は、私の勉強不足もあるかとは思いますが、読んだことがないかと思います。厳しい印刷市場を乗り越えるためには戦略が必要不可欠だと、さまざまなところで言われているにも関わらず、です。

そもそも、競争戦略とはなんでしょう?一橋大学教授 楠木健氏は、著書「ストーリーとしての競争戦略」(東洋経済新報社)で以下のように書いています:
  • 競争戦略は、「誰に」「何を」「どうやって」提供するかについてのさまざまな「打ち手」で構成されています。戦略は競合他社との違いを作るものです。さまざまな打ち手は他社との違いをつくるものでなくてはなりません。
  • しかし、個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。それらがつながり、組み合わさり、相互作用する中で、初めて長期利益が実現されます。
こうした観点で見ると、これまでの記事は「さまざまな打ち手」の紹介が中心で、「それらがつながり、組み合わさり、相互作用する中で、初めて長期利益が実現される」という部分に十分触れられていなかったようです。

今回、編集者のご厚意によりまとまったページ数をいただけましたので、ハイブリッド印刷に取組まれている印刷会社の競争戦略の分析・評価に取り組みました。その際、楠木教授の「ストーリーとしての競争戦略」という以下の様なフレームワーク(考え方)を使いました:
  • ストーリーとしての競争戦略は、さまざまな打ち手を互いに結びつけ、顧客へのユニークな価値提供とその結果として生まれる利益に向かって駆動していく論理に注目します。
  • つまり、個別の要素について意思決定しアクションを取るだけでなく、そうした要素の間にどのような因果関係や相互作用があるのかを重視する視点です。
こうした視点から競争戦略をまとめたのが、以下に挙げた図になります。四角の部分が「打ち手」、またそれぞれの打ち手をつなぐ矢印が「因果関係や相互作用」になります。こちらは、お茶や海苔、健康食品など向けパッケージ(軟包装)印刷会社 吉村紙業株式会社(東京・品川区)の例ですが、さまざまな打ち手が有機的につながって長期利益を実現していることが分かります。詳細は、「印刷情報 6月号」をお読みください (^ ^)

さて、こうした「競争戦略」の観点からデジタル印刷で成功している印刷会社を分析すると、以下のような共通点が見えてきました。これらの点につきましては、また改めてこちらのブログでご説明したいと思います:
  1. 既存事業とデジタル印刷サービスにシナジー(相乗効果)が出ている。
  2. 営業部門と生産部門が「マーケティング」で協業できている。
競争戦略ストーリーは、自社の戦略を客観的・包括的に分析・評価できる面白いフレームワークです。是非、皆さまも自社の「競争戦略ストーリー」作りに取組むことをオススメします!その際、お手伝いが必要でしたら、お気軽にお声がけください♪

2013年6月4日火曜日

2013年版 印刷通販市場 新規参入/活用ポイント

前回のブログでご紹介した記事が「印刷通販Book」に掲載されました!
これは、ニュープリンティング社からプリテックステージ 2013年5月号増刊として発行されたものです。今回の記事では、印刷会社による印刷通販市場への新規参入戦略立案のポイントとして以下のような点を挙げました:

  • 印刷会社相手ではなく、顧客と直接やり取りすること。
  • 「絞り込んだ市場」に向けてサービスを提供すること:
    • 特に、これまでの印刷通販会社が取りこぼしてきた市場:
      • 個人向けサービス
      • 中小規模サービス業向けサービス
      • 海外市場向けサービス、など
  • 「絞り込んだ商材」を提供すること:
    • 名刺やショップカード、チラシ、DM、など
    • 既存の設備で対応できる商材
  • 高い UI/ UX(User Interface/ User Experience)を実現すること。
  • 小さく始めてフットワーク軽く展開すること、など

詳細につきましては、記事をお読みください!印刷通販Bookには、ラクスルの松本社長の講演概要やグラフィック、プリントパックなど国内の主要印刷通販会社10社の取材記事が掲載されていてとても読み応えがあり、また勉強になります。

ところで、ラクスル松本社長の記事の中に、印刷通販が引き起こした変化を上手く使う方法として「印刷通販を下請け会社として使う」という提案がありました。私もこの考え方には賛成で、実はもう少しページ数があれば、記事中でこうした点についても触れたいと考えていました。

この場合重要なのは、松本社長もご説明されている通り、印刷物を安く提供するためにではなく「自社サービスの付加価値を高めるため」に印刷通販を下請け会社として活用することになります。これは例えば、販促支援サービスの提供に当たって、その費用対効果を高めることに注力する中で印刷通販サービスを様々な選択肢の中のひとつとして活用する、ということです。

さて、費用対効果を高める際には、特に「効果」を明らかにするために KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)を定義し、それを継続的に測定・評価する必要があります。KPIは、Webマーケティングの領域では広く使われている言葉/考え方なのですが、印刷業界で詳しい方はそれほど多くないようです。

顧客のコミュニケーションの『効果』を表す適切な KPIを設定し、継続的に測定・評価・改善すること。その際、印刷通販サービスを適切に活用して『費用』を抑えること。この両面を揃えることで、印刷会社は印刷通販が起こした大きな変化を武器にすることができると考えます。そういえば、拙訳書「未来を破壊する」でも「印刷ビジネスの新しいルール」のひとつとして、以下のような項目が挙げられていました:

  • 顧客のコミュニケーション全体のROI(費用対効果)、特に印刷物とは関係のない取組みに集中すること。
まだ、こうした考えでコミュニケーションサービスを開発・提供されている印刷会社は限られています。是非、御社でもこのような取組みを「小さく始めてフットワーク軽く展開」して、「未来を破壊」してください!